【英語教育関連情報】中高校生の英語力の現状

文部科学省が高校3年生(国公立493校の約8万人)を対象に実施した「平成27年度英語教育改善のための英語力調査事業」(平成28年度は中学3年生のみ対象)の英語に関する4技能(読むこと・聞くこと・書くこと・話すこと)の英語力調査の結果から、高校3年生の英語力がかなり低いことがわかります

調査結果(CEFR/ヨーロッパ言語共通参照枠を参照して測定)によると、「読むこと」はA1(英検3級以下相当)が66.4%(平成26年度は72.7%)、A2(英検準2級相当)以上は33.6%(平成26年度は27.3%)、「聞くこと」はA1が71.9%(平成26年度は75.9%)、A2以上は28.1%(平成26年度は24.1%)、「書くこと」はA1が80.4%(平成26年度は86.5%)、A2以上は19.6%(平成26年度は13.5%)、「話すこと」はA1が87.2%(平成26年度と同じ)、A2以上は12.8%(平成26年度と同じ)でした。つまり、高校3年生の少なくとも約66%の英語力は「英検3級以下」ということになります

国の第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日閣議決定)では、中学卒業段階において「英検3級程度以上」、高校卒業段階においては「英検2級~準2級程度以上」を、中高校生の50%が達成することを目標としています。また、英検を運営する日本英語検定協会が示す「推奨目安」では、英検3級は「中学卒業程度」となっています。そのため、この調査結果が公表される度に、「高3の英語力は中卒程度」といった見出しでメディアでは報じられました。

英検を判断基準にするなら、文部科学省による「平成28年度英語教育実施状況調査」でも同様の結果が出ています。この調査結果によれば、高校3年生(公立3,390校の約72万人)のうち、「英検準2級以上を取得している生徒」は13.0%(平成27年度は11.5%、26年度は11.1%)で、「取得はしていないが英検準2級以上相当の英語力を有すると思われる(英語担当教員が判断)生徒」は23.5%(平成27年度は22.8%、26年度は20.8%)です。両者を合わせても36.4%(平成27年度は34.3%、26年度は31.9%)なので、高校3年生の約64%の英語力は「英検3級以下」ということになります

この調査は、中学3年生(公立9,460校の約107万人)も対象として実施されています。そのうち、「英検3級以上を取得している生徒」は18.1%(平成27年度は18.9%、26年度は18.4%)で、「取得はしてないが英検3級以上相当の英語力を有すると思われる(英語担当教員が判断)生徒」は18.0%(平成27年度は17.7%、26年度は16.3%)です。両者を合わせても36.1%(平成27年度は36.6%、26年度は34.6%)なので、中学3年生の約64%の英語力は「英検4級以下」ということになります

このように中学3年生の時点で英語力が低いので、高校3年生の結果は決して驚くようなことではありません。「英検4級以下」の英語力を有する中学3年生と「英検3級以下」の高校3年生がどちらも約64%なのは、偶然の一致ではないと思います。英語力が低い高校3年生は、既に中学3年生の時点で英語が苦手になってしまっているのです。

「英検3級以上」の英語力を有する中学3年生が約36%しかいないので、英検3級は中学3年生にとって難易度が高いのではないかと思われるかもしれませんが、英検3級の出題内容と学習指導要領(検定教科書)を照らし合わせれば、「中学卒業程度」という目安が妥当だとわかります。つまり、中学内容をきちんと理解できている中学3年生が36%しかいないということです

この「英語教育実施状況調査」は、公立中学の3年生を対象として12月に実施されています。公立中学の3年生は普通、高校入試直前に実施される英検第3回(一次試験は1月実施)は受検しない(ちなみに東京都は私立高校の推薦入試と重なります)ので、第2回(一次試験は10月実施)を終えた後の12月であれば、中学卒業時と英検の取得率は変わらないはずです。英検3級以上を取得していると私立高校入試で優遇されることがあるので、第2回を受検する中学3年生の意欲が高いのは確実です。また、高校入試に向けて中学生活で最も勉強している時期なので、英検を受検しなかったとしても「英検3級以上相当の英語力を有すると思われる生徒」はもっと多くいてもいいはずです。このように好条件が揃っているにもかかわらず、あのような低調な結果なのだから、中学3年生の英語力は低いと言わざるをえません。

「英語教育実施状況調査」は、平成27年度から都道府県別の数値も公表されています。東京都の中学3年生の「英検3級以上を取得している生徒」は、平成28年度は29.3%(平成27年度は30.2%)で全国1位(平成27年度は秋田県に次ぐ2位)です。「取得はしてないが英検3級以上相当の英語力を有すると思われる生徒」と合わせた47.1%(平成27年度は47.9%)は、奈良県に次ぐ全国2位(平成27年度は3位)ですが、奈良県は「英検3級以上を取得している生徒」が9.7%しかいないのに対して「取得はしてないが英検3級以上相当の英語力を有すると思われる生徒」が38.3%もいるので、実質的には東京都が1位と言えます。受験競争が激しい東京都でも国の目標である50%にまだ達していないのですが、英検3級が「中学卒業程度」なのは妥当なので、国の目標である50%が厳しいのではなく、達していない現状が厳しいのです。

ちなみに、東京都の高校3年生は、「英検準2級以上を取得している生徒」が13.9%(全国20位)なので全国平均(13.0%)を若干上回っていますが、「取得はしてないが英検準2級以上相当の英語力を有すると思われる生徒」と合わせた33.9%(全国34位)は全国平均(36.4%)を下回っています。中学3年から高校3年までの3年間で「英検3級以上」から「英検準2級以上」に伸びていないのは明らかです。この調査の対象は公立高校だけなので、公立中学から私立高校や国立高校に進学した生徒が抜けている分(公立志向の強い他県よりも多いはずです)下がっているのは確実ですが、10%以上下げるほどではありません。他にも原因は考えられますが、特に「中高間ギャップ」が東京都は大きいということです。

文部科学省によるこれらの調査の結果、高校3年生の約64%の英語力は「英検3級以下」になりますが、その中には、高校3年生なのに英検4級(中学中級程度)、さらに5級(中学初級程度)程度の英語力しか有していない生徒もいるはずです。英語力不足の問題は、学年が上がれば上がるほど深刻度が増します。

新設の大学や学部が申請通りに運営されているかどうかを文部科学省が調べた「設置計画履行状況等調査」の中で、ヤマザキ学園大学(現・ヤマザキ動物看護大学)に対して「入学者の状況について、受験者のほとんどが合格していることや、必修科目として配置している『イングリッシュスキルズ(基礎)』については、Be動詞や文の種類(単文から複文)から仮定法までの内容とせざるを得ない状況と推察すると、入学者選抜機能が働いているとは考えられないため、アドミッションポリシーに沿って適切な入試を行うこと。」(平成25年度)、千葉科学大学に対して「『英語Ⅰ』『基礎数学』など大学教育水準とは見受けられない授業科目があることから、大学教育の質の担保の観点から、適切な内容に修正するか、または正規授業外でのリメディアル教育で補完すること。」(平成26年度)、びわこ成蹊スポーツ大学に対して「『教養演習A』、『英語Ⅰ』等の各科目について、大学教育として適切な内容となるよう再度精査し、シラバスもあわせて修正すること。なお、科目を履修するに当たっては必要に応じて正課教育外のリメディアル教育で補完すること。さらに、アドミッションポリシーに沿って適切な選抜を行うよう改善を図ること。」(平成27年度)、福岡工業大学に対して「『英語初級Ⅰ・Ⅱ』、『基礎物理学』等の各科目について、大学教育として適切な内容となるよう再度精査し、シラバスもあわせて修正すること。なお、科目を履修するに当たっては必要に応じて正課教育外のリメディアル教育で補完すること。」(平成27年度)と是正意見/改善意見が報告されています。これを受けて、「大学の授業でbe動詞」などの見出しでメディアで取り上げられてきました。

この調査は新設の大学や学部が対象ですが、既設の大学の中に、このようなレベルの授業がなされている大学があっても不思議ではありません。実際、2000年設立の日本橋学館大学(現・開智国際大学)の「基礎力リテラシー」という履修科目のシラバスに「アルファベットの書き方・読み方」「辞書の使い方」「be動詞」「一般動詞」とあり、使用教材が「学研ニューコース 中学(1~3年)英文法」だったので、2011年に週刊誌にも取り上げられました。シラバスを見る限り、GENUINEの中学1年の1学期の学習内容とほとんど同じです。中学生レベルどころか、アルファベットを大学生に教えているということで話題になりましたが、同大の横山幸三学長(当時)によると「『アルファベットの書き方』は、90分間、ずっと書き方だけ教えているわけではない。英語史を専門とする教授が、文字の成り立ちなどにまで幅広く解説しています。学生たちは、言語の発展の歴史・経緯について、興味を持って聞くようになります」と、大学生向けに調整していたようです。

この「基礎力リテラシー」は必修科目ではなく選択科目なので、文部科学省の是正意見/改善意見の中で度々述べられている「正課教育外のリメディアル教育で補完すること」に該当します(横山学長も「本学の『基礎力リテラシー』は、リメディアル教育という考えに基づくものです」と述べていました)。「リメディアル教育(大学教育を受けるために必要な基礎学力を補うために行われる補習教育)」を行っている大学は、1999年に実施されたアンケート調査(回答数は国立大学89大学、公立大学41大学、私立大学337大学)によると、「未履修型(大学での専門教育で必要であるにもかかわらず、高校でその科目を履修していない学生が対象)」が11.7%、「学力不足型(高校で履修したにも関わらず、高校卒業レベルの学力に達していない学生が対象)」は9.9%でした。このアンケート調査の範囲内だけでも46大学が「学力不足型」なので、日本橋学館大学のような大学(中学卒業レベルの学力に達していない学生が対象)が他にもある可能性は十分あります。このデータは少し古いですが、「ゆとり教育」による履修科目数減少(2002年実施の学習指導要領により完全週5日制)、そしてAO入試や推薦入試の増加の影響によって、1999年当時よりも「リメディアル教育」は普及している(2005年に日本リメディアル教育学会発足など)ので、同様のアンケートを今実施すれば、リメディアル教育を行っている大学の数はもっと増えるはずです。

横山学長が「批判は甘んじて受けますが、なぜ本学がこのような選択科目を用意したのか。それは、中学高校で(基礎教育が)先送りされてきたツケのためです。本学は、学生を社会に送り出す“最後の砦”として責任を果たします。表面だけをとらえてバカにするのは簡単ですが、これが日本の教育の縮図と考えれば、決して笑ってばかりもいられないはずです」と述べた通り、このような状況の根本的な原因は中学と高校にあり、大学はそのツケを払っているだけです。是正意見/改善意見の中でも述べられているように、学力が不足していても合格させてしまう入学試験に問題がありますが、大学は「リメディアル教育」を行うなどして責任を果たしています。けれども、そのような学生を卒業させてしまう中学と高校は責任を果たしているとは言えません。もし中学と高校に卒業試験があれば、卒業できないはずの学生なのだから、大学の入学試験以前の問題だったはずです。実際は、英検5級(中学初級程度)程度の英語力でも高校を卒業してしまい、そして大学に入学できてしまうのだから、大学でbe動詞から教えるのは現実的な対応だと思います。大学でアルファベットやbe動詞を教えているというギャップの大きさが衝撃的で注目が集まってしまいましたが、中学と高校で英語力が改善できていれば、そのギャップはこれほど大きくならなかったはずです。問題は、大学で中学1年レベルを教えていることではなく、中学入学から高校卒業まで6年間も学習して中学1年レベルのままであるということの方です。

中学3年生の約64%の英語力が「英検4級以下」(もしくはそれ以下)である一方、約36%の「英検3級以上」の中には、準2級(もしくはそれ以上)を取得している生徒や、準2級(もしくはそれ以上)相当の英語力を有すると思われる生徒も含まれています。英検(一次試験)は選択問題なので、試験対策をすれば中学3年生が準2級を取得することは十分可能です。同じ中学3年生でも、英検4級(中学中級程度)を取得している生徒と準2級(高校中級程度)を取得している生徒の間には、2学年分以上の学力差が生じていることになります。中学生の場合、帰国子女や留学経験者(中学生ではほとんどいませんが)は少ないので、その約36%の生徒の多くは、中学1年から本格的に英語を学習し始めた一般的な生徒です。小学校でも英語の授業がありますが、簡単な英会話やアクティビティが中心(次の学習指導要領から変わります)なので、興味関心を高めることができても、英語力自体にはほとんど影響がありません。また、習い事の1つとして英会話教室に通う小学生が増えていますが、小学校同様、学力面における影響は小さいです。つまり、他教科と違って英語の場合、このような決定的な学力差は、中学入学後の3年間で生じてしまっているので、この3年間でどのように学習するかが本当に重要なのです

【参考資料】

文部科学省「平成27年度英語教育改善のための英語力調査事業報告」

文部科学省「平成26年度英語教育改善のための英語力調査事業報告」

文部科学省「教育振興基本計画」

文部科学省「平成28年度『英語教育実施状況調査』の結果について」

文部科学省「平成27年度『英語教育実施状況調査』の結果について」

文部科学省「平成26年度『英語教育実施状況調査』の結果について」

文部科学省「設置計画履行状況等調査の結果等について」

週刊ポスト2011年10月21日号
http://www.news-postseven.com/archives/20111012_33280.html

週刊ポスト2011年10月28日号
http://www.news-postseven.com/archives/20111017_65287.html
http://www.news-postseven.com/archives/20111018_65305.html

山本以和子「【寄稿】リメディアル教育の現状~大学アンケートから~」